インバウンドのおかげで大きく潤った地域も多かったホテル/旅館業界ですが、その押しよせる人波も一段落し、次の一手を思案しているところも多いのではないでしょうか。特定の人気地域は好景気の恩恵を受けていることもあるようですが、日本全体としては国内需要の落ち込みのほうが激しく、決して左うちわではない地域のほうが多いと思います。
円安基調は続くとも言われていますが、このタイミングで次のステージへの仕込みをできるかどうかがこの先5〜10年の業績を左右すると言っても過言ではありません。息をつくまもないのが辛いところですが、踏ん張りどころです。時代にあわせた新規オープン施設やリニューアル施設のニュースには事欠かないため、競合環境は依然として厳しい状態が続くことが予想されます。
今回は、こうしたホテル/旅館の集客・マーケティング戦略について考えてみたいと思います。新規宿泊客を増やし、リピーターを増やし、施設の稼働率をいかにしてあげていくべきか、いくつかのポイントで整理してみましょう。
Point.1 人、人、人
一部のラグジュアリーホテルを除き、通常は改装のようなハードにお金を使う施策は打ちにくいのが現実です。ただその一方で、設備は決して新しくないのに人気を博しているホテルや老舗旅館があるのも事実です。
まず何より、人、の差があげられます。「うちはみんな優秀だから」という方、ちょっと待ってください。経営者から見た優秀と、一人一人のお客様から見た優秀は違う場合があります。「人材レベルが低いからねぇ、うちは」という方、あきらめないでください。人はいくらでも変われます。
既に意識されていることかもしれませんが、マニュアル通りの業務をさせる、というレベルは最低条件です。大切なのは目の前のお客様が何を求めているかを察する能力です。
優秀なベテランスタッフなら自然とやっていることかもしれませんが、部屋への案内一つとっても、全てのお客様に同じ対応をするのではなく、相手の気にしているポイントを詳しく説明したり、逆に急いでいるようであれば早めに切り上げたりなどの対応が必要でしょう。言葉にすれば簡単ですが実践は難しい領域です。「こういうときはこうする」という知見をスタッフ間でしっかり共有し、ロールプレイを繰り返して、何パターンもの引き出しをスタッフが持てるようにしましょう。経験と勘の大半は言語化できますし、そういった一つ一つのいわば技を繰り返し学習していくことで、接客レベルを引き上げることは可能です。
そしてそれらの対応がしっかりと会社組織内で評価される仕組みが必要です。仕組みがしっかりと運用されれば、それはいずれ文化として強く定着します。一朝一夕では無理でも、長く愛されるホテルや旅館を作り上げるために、組織文化の創造に挑戦してみてください。
Point.2 内外にこだわりを発信
あまりおおっぴらに自分達の話をしないことが美徳とされてきた日本ですが、もうそんなことを言っていても仕方ない時代になってきました。また、お客様自身も、「あんたのところは何がすごいんだ」を手短に知りたがる傾向も強くなってきています。
自分達は何にこだわっているのか、そのことをしっかり発信しましょう。これは外部に対してだけではありません。スタッフ全員が同じ認識を持てるよう、内部に向かっても、情熱のシャワーのように何度も繰り返し発信しましょう。強みを意識することで、それを強化するような行動を促すことにつながります。
形骸化したメッセージほど無意味なものはありません。自分達のこだわりを内外に発信することで、覚悟と自信をにじませてください。そのためのホームページであり、紙媒体であり、ソーシャルメディアであることを強く意識し、継続的な情報発信に努めるようにしましょう。
Point.3 一手間を惜しまず、顧客を大切にする
よほどの高価格帯でない限り、なかなか宿泊客一人一人に目を行き届かせるのは難しいと思います。それが100室を超えるようなホテルであればなおさらでしょう。
しかしここは大きなチャンスです。超高級老舗旅館しかできていないような、フォローができればどうでしょう。宿泊した後にも定期的にフォローの手紙がきたらどうでしょうか。2回目の宿泊時に、その前提でスムーズに対応してもらえたらどうでしょうか。
もちろん、手書きで書けともいいません。年に何回も送れとも言いません。できる範囲で良いので、思わず受け取ったお客様の心が暖かくなるような、そんなフォローアップを考えてみてください。接客担当が分担して取り組めるよう、毎日のシフトの中にそういった時間をつくってみてください。業務効率ばかりが重視される今だからこそ、ポイントカードのようなうわべだけのフォロー施策以外の方策を検討してみてください。
毎年何回も利用する顧客も大切ですし、毎年1回泊まりにくる顧客も大切です。こうした一期一会を確実に長期的な関係に変えていくようなコミュニケーションは可能なはずです。自社の立ち位置を考えながら、最適なコミュニケーション戦略を構築していってください。
横並びだからこそのチャンス
価格比較サイト、旅行予約サイト。どこのホテルも旅館も似たり寄ったりです。この状況をチャンスと捉えてみてください。「毎回ここにお世話になるんだよ」「毎年ここにお世話になるんだよ」というお客様の言葉には、無限の価値があります。こうした言葉をいただけるよう、自分達流を構築してみてください。