アナログの迫力

Google社が積極的に進めている美術品のデジタル化は遠い話だとしても、本や雑誌、さらにはインターネットでいくらでも収蔵物の情報を得られる今、改めてアナログで収蔵品と向き合える美術館や博物館の魅力が見直されてきています。伝統ある博物館から、街中のギャラリーまで、アートに触れる機会を提供してくれている存在は日本の文化度を下支えする存在とも言えます。

華やかな展示物とは裏腹に、こういった施設の運営はとても地味で繊細なものです。扱う物は高額で代替のきかないものばかりですし、効率を高めつつもセキュリティをはじめとした様々なことに気を配らなければなりません。基本的な運営方法は何十年も変わっていないにしても、その裏側にある仕組みはアップデートしていくべきです。訪れる人たちはアートに興味があるという共通点はあれど、その属性も多岐に渡ります。

今回は、こうした美術館や博物館、中規模以上のギャラリーを運営するのに活用可能なシステムについて考えてみたいと思います。入館者の管理や展示物の管理、さらには業務全体をどのようにシステム化していくべきか、いくつかのポイントで整理してみましょう。

Point.1 チケットレスのチケット、入館管理

これからシステムの導入や刷新を考えるのであれば、チケットレス化へ大きく舵を切りましょう。紙のチケットを絶対に無くさないといけないわけではないですが、オンラインでチケットを販売し、そのまま入館できることは、利用者にとっても便利ですし、運営側にとっても事務作業の軽減につながります。

各チケット販売サービスとの連携も組み込みやすいので、チケットレスで入館管理ができるように受付でのオペレーションも見直すべきです。従来は窓口を用意していたのであれば、改札のような受付で良い場合もあります。スマートフォンでQRコードを掲示してもらうスタイルでも良いですし、来館人数がそれほど多くない場合は、チケット番号と照合するやり方でも構いません。とはいえ、ミスの元になり得る要素は廃すべきなので、デジタルチケットとしてQRコードを配信し、受付のバーコードリーダーで照合するやり方が、正確さとスピードの両方を担保できるやり方としてお勧めです。

もちろん、最初のうちは紙のチケットのデザインを恋しく思う人は、紙のチケットを集めている人からの反発も予想されますが、そうしたニーズには別のかたちで代替品を提供できるはずですので、業務フローや、利用フローの簡便化を重視する方向をおすすめします。あわせてインバウンド需要のために多言語対応が求められる場合があります。チケット売り場で無用な混乱を生まないよう、ホームページやチケットページを多言語対応しつつ、そうしたチケットレスが確実に理解されるように努めるべきです。チケット売り場のスタッフの言語スキルによっては、簡単な案内パンフレットを用意して対応してもらうのも良いでしょう。

Point.2 ロケーションベースの案内配信

美術館や博物館では、古くからカセットテープによる案内グッズの販売が行われてきました。大きなところでは館員が案内してくれるところも多いでしょう。収蔵品について学びたいこうしたニーズに応えるために、解説が収録されたタブレットを貸し出したり、専用のアプリを提供したりするのも一つですが、もっとお手軽に始められる方法として、館内だけで有効な無線LANでコンテンツを配信するという方法もあります。

具体的には、入館者向けの無線LANをセットアップし、そこへのアクセス情報を入館者に案内します。入館者はその無線LANにつなぐことではじめてアクセスできる場所にある解説コンテンツを楽しむという流れです。美術館や博物館は閉鎖的な空間であることがほとんどだと思いますので、ちょうどホテルが提供している無線LANのように、入館者だけへのサービスとして機能します。心配であれば、入館者にしか知り得ないようパスワードを定期的に変更するのも良いでしょう。

つないでいる人限定の情報提供に加えて、館内レストランやおみやげショップからのプロモーションも送れるようにしておくと、いろいろなマーケティング的な応用がきいてくるでしょう。デジタルサイネージ用のモニタの値段もこなれてきているため、館内で積極的なデジタル掲示を展開するのもあわせて検討してみてください。

Point.3 顧客リストと案内配信

展示内容の好みはあれど、一度来館してくれた人は、他の展示でも重要な見込み客です。こうした人たちを適切に集積し、新しい展示の案内を送るなどのプロモーションを行っていくことはとても重要です。

オンラインからチケットを申し込んでくれた人の情報は蓄積が容易ですが、それ以外の人にもお知らせサービスへの加入を積極的に勧めましょう。前述の館内案内サービスの無料利用と絡めて加入を促すのも一つです。また、お知らせサービス加入に早期割引き等の特典をつけるのも加入率向上に有効な場合もあります。

単独の美術館での取り組みでは限界があるようであれば、同じような美術館や博物館と連携し、相互に紹介し合うというのも良いでしょう。客層としては似てくるはずですので、Win-Winな取り組みを行う共同体の規模を大きくしていくべきです。大きな構想にもなりうる話ですが、お互いの相乗効果になりうる業態、団体とは、コラボレーションを常に追求するのも良いでしょう。

待ちから攻めへ

今、美術館や博物館は様々なものと来館者を奪い合っています。それは新しくできたショッピングモールかもしれませんし、改装した百貨店、さらにはスマートフォンのゲームかもしれません。こうした余暇の時間を奪い合うものに対して、待ちの姿勢では決して来館者を増やしていくことはできません。

サービスの質を高め、リピーターを育成すること。大前提として魅力的な展示を作り続けていくことはあれど、それ以外のことでも館の魅力を高めていく努力ができるはずです。こうした努力の一つのツールとして、「使えるシステム」の導入も是非検討してみてください。

開発スタッフのコメント
毎日収蔵品が激しく入れ替わる、という場所でもない限り、旧来のエクセル管理でも問題が出ない美術館や博物館のほうが多いかもしれません。とりわけ運営元の方針によっては様々なことが保守的になるのも仕方ないでしょう。ただ、世の中はどんどんと変わっていく中、美術館や博物館だけいつまでも変わらないわけにもいきません。業務効率やユーザー体験が向上すれば、それはそのまま収益性やコスト改善につながっていきます。改めて運営体制はどうあるべきか、まずはそこから議論してみてはいかがでしょうか。