起業の時代のローコストサービス

ここ数年の間に、起業という言葉が特別なものではなくなってきました。LLCといった形態がでてきたこともありますし、長く資本金制限が実質的になくなっていることも追い風になっていることは間違いありません。そして何より、独立して業をなすという生き方自体が一般的になってきているのではないでしょうか。

とはいえ、会社設立を志した時に最初にぶち当たる壁が会社登記を含む申請絡みの作業。お金をだせばプロに丸投げできますが、できる限りコストを抑えたい人や自分でやりたいという人も多いのが事実です。こうした人達のために、会社設立申請書が簡単に作成できるサービスというものが一定の支持を集めているのではないでしょうか。ニッチな特定分野に絞ったものから、会計サービスを提供する会社が開放しているサービスまで、起業に関する周辺領域は今も非常に活発です。

今回のテーマはその会社設立申請書作成サイトのシステムです。既にいくつかのサービスが存在している中で、どういったポイントに気を付けてサービスを設計し、システムを構築すれば良いのか。ユーザーの支持を集めるために工夫できる方向性をいくつか考えてみたいと思います。

Point.1 途中までは会員登録不要にし、最初の一歩を後押し

会社設立に関する書類が作成できるサイトであることは、デザインやキャッチコピーの工夫でいくらでも伝わります。ただ、いざ書類を作成しようと思ったら会員登録をしないとそもそも何もできないというのではハードルが高すぎます。会社設立には非常にセンシティブな個人情報を入力する必要がある場合がほとんどですので、そういった事情もユーザーをより不安にさせます。

もちろん会員登録不要で何でもできてしまうとただのボランティアサイトになってしまうので、事業として行うのであれば意味がありません。そこで、書類作成の途中までは会員登録不要で行えるようにします。こうすることで書類作成機能の便利さをアピールできますし、どんな機能かわからない競合に対する差異化要因になり得ます。途中までは個人情報無しにイメージを提示できるようにするとなお良いでしょう。ある程度の最終形が見えて、サービスとしての信頼度が高まった段階で、そっと背中を押してあげるのが効果的です。

幸いにも設立資料に入力する内容と会員登録に必要な情報はほとんど重複します。ユーザーの手間を減らすためにも入力回数を1回で済むように、会員登録と書類作成の流れを可能な限りシンプルにしましょう。途中で離脱した人たち向けに、途中から再開できるような一時保存機能があっても良いでしょう。

Point.2 編集画面はライブプレビューでわかりやすく

書類作成というと、無味乾燥なフォームに必要事項を不安に思いながら入力して、フォームを送信してはじめて書類が生成されるというものが多いのではないでしょうか。やる気に満ちあふれた人なら何の問題もありませんが、パソコンに不慣れな方や、今イチ全体感がわからなくてとまどう人も多いと思います。よほどの連続起業家でない限り、会社設立に伴う作業は初めて、というケースがほとんどです。少しでもユーザビリティを高めておくことに越したことはありません。

そこで入力画面をライブ感あふれるものにし、書類上の該当箇所をそのまま編集していけるような入力画面にします。こうすることで常に最終のできあがりを確認しながら入力するので、イメージが湧きますし書類を作っていこうというモチベーションが高まります。入力項目に対する説明は手厚くする必要はありますが、ユーザーのモチベーションをいかに刺激するかという視点で全てを精緻にしていくことが重要だと思います。

よく使われる表現などは呼び出して使えるようにすると、一から書類を作成する必要がなくなります。こうした補助機能は積極的に充実させてみてください。

Point.3 書類作成後はわかりやすくアフター提案を

書類が完成した後は、保存ができたり印刷ができたりといった流れになりますが、ここでその後の申請代行や税理士の紹介などを行います。作成した書類の種類によって適切な提案になるようにシステム上で事前に登録しておき、必要な人に必要な情報が行き届くように配慮します。内容を通知するだけのシンプルなものから、関係する士業の方達に専用のログイン画面を用意し、必要な情報の参照やコミュニケーションをとってもらう方法も良いでしょう。

また、地域ごとの注意点や活用すべき申請などをあわせて表示することで、ユーザーの満足度をもう一段高いものにすることができます。このマッチングの部分は非常に準備に時間を要する部分でもありますが、それぞれの職種で一定の地域をカバーできるように協力者を探してください。Win-Winの構造が見えやすい業務提携ですので、一つのかたちができてくれば、充実度が加速していくと思います。

起業後のサービス提供こそ事業の命

会社設立の書類を作成できるだけでは事業としては収益がでません。収益をだすためには申請代行や、起業後に利用できる何かしらのサービスを提案し契約することが重要になってきます。

書類作成機能で競合を引き離すことができれば、その後もずっとそのユーザーを囲い込む権利を得ることができます。しっかりと作り込むことではじめて事業としての基盤ができるのだと思います。大きな視点でビジネスモデルを描き、最初の入り口を魅力的にする。このことにまずはこだわってみてください。

開発スタッフのコメント
会員登録すらも不要にしてしまう、という考え方もあります。何を事業の目的にするか、ですが、申請まで会員登録不要にしてしまって、その後の付随機能が登録すると便利に使えるようにするという動線設計も有効でしょう。色々なサービスが乱立する中で、会員登録疲れがあるのも事実です。より広く利用されるために、より広く口コミで拡がるための方策としては検討の価値がありそうです。