クラウドファンディングという言葉が一般的になってきました。アメリカのKickstarterやIndiegogoに代表されるサービスの総称ですが、日本でもMakuakeなど、実績を積み重ねてきていることもあり、企業規模の大小を問わずに、その採用例が増えてきています。本来的な開発支援という意味で使われる一方で、初期ユーザーを獲得するためのマーケティング活動の一環として行われることも増えてきました。当たり外れはどうしてもあるもので、こうしたクラウドファンディングを支援して、損した、得した、楽しかった、といった経験をされた方も多いのではないでしょうか。

クラウドファンディングを成功させるためにどうすべきか、ということについてはまた機会を改めるとして、今回は、幸いにもクラウドファンディングに成功したプロジェクトのその後をどうすべきかについて考えてみたいと思います。いくつかのポイントで整理してみましょう。

Point.1 需要を冷静に見極める

クラウドファンディングの良いところは、先行予約に似た形態で、販売前の商品の受注見込みを獲得できることにあります。最初は半信半疑だった社内も、支援者の増加にともなって盛り上がっていくことは珍しいことではありません。

ただ、ここで冷静にその需要を見極める必要があります。

もともと300人未満の支援者を想定していたプロジェクトの場合、クラウドファンディングが成立したからといって、バラ色の未来が待っているわけではありません。正規販売価格が高ければ高いほど、クラウドファンディングの割引率は大きくなる傾向があるので、その需要はいわば開店出血大セールでの売上と言える部分があります。最悪の場合、もともととれる予定だった需要を先取りしたに過ぎない、というケースもありえます。クラウドファンディングが成立した人数の何倍もの需要があるかどうかは、ケースバイケースと言えるでしょう。

クラウドファンディングであれば支援タイミングによって割引率を変えるのが一般的なため、支援者の伸び悩むポイントがどこなのかで、おおよその価格弾力性が見えてきます。もちろんこれだけで正確な需要予測は難しいですが、次のステップを考えるうえでの冷静な分析には役立ちます。

Point.2 利幅に応じたチャネル展開

前項にもからみますが、クラウドファンディング後の販売戦略において、価格設定はとても重要です。クラウドファンディングで提供していた価格では、実は利益は全然でていない、というプロジェクトも少なくありません。実際に事業として展開していく上では、利益をしっかり確保しながらも、数量を多くださなければいけません。

とても収益性が高いのであれば、思い切ってもともとの正規価格を引き下げるのも一つです。しかし仮に収益性がそこまで高くないのであれば、小売店や問屋に卸す形態はなかなか利益構造として難しくなります。その場合は自社ネットショップを中心に販売していくことになりますし、そうでなければ、販売力の高い小売店にクラウドファンディングの実績をもとに営業をかけていくのが王道でしょう。バイヤー側もクラウドファンディングでの実績のある商品は需要が見えやすいので、採用されやすい傾向があります。萎縮せずに大胆に営業活動を行いましょう。

量産効果がそこまで出ない場合には価格戦略自体を見直すべきです。クラウドファンディングを通じた開発によってわかることも多くあると思うので、価格を当初予告していたままでいくのか、機能をアップグレードするかわりに値上げするのか、など、様々なアプローチがありえます。クラウドファンディングで提示していた金額より安く販売することはクレームのもとになるため、くれぐれもそうならないように計画しましょう。

Point.3 事業改革・商品改革をあきらめない

クラウドファンディングが成立してからは、どこの会社も忙殺されます。注文はとってしまっているので、期日までに納得のいく商品を届けなくてはなりません。そのため、どこもなかなか事業構造そのものや、商品の改善や原価低減に頭が回りません。とはいえ、一度型を作ってしまったりすると身動きがとにくくなるため、どこまでを量産前提でいくのか、そして、どこまで改善するかの線引は難しいと言えます。未完成の商品を出品していた場合には、なおさら不測の事態による影響が大きくなってしまいます。

クラウドファンディングは、「その値段であればこれだけ売れる」というのを実験する最高の場です。もし商品1点あたりの収益性を高めることができれば、もっと多くの販売が見込めることを意味します。一通りの原価削減努力はした、という場合も、さらにもう一段、二段踏み込んだ努力をすべきです。

数量がでるのであれば、ある程度の量を確保することでコスト低減もできるでしょうし、専門業者に外注することでコストが下がるかもしれません。原価を100円、1000円と下げていく努力をどこまで行えるかで、事業展開した際の競争力が高まり、可能性が大きく拡がっていきます。製造から販売の一連のフローをどこまで最適化できるかが、大きな事業に成長するかどうかを左右します。

ものづくり企業の夢の舞台

今までも言い古されてきた「技術力はあるんだけど・・・」「いい商品なんだけど・・・」といったため息まじりの飲み屋トークが、クラウドファンディングの普及により変わりつつあります。もちろん、良い商品を持っていないと話にならないので、そこにすら至れない企業は多いのは事実ですが、しっかりと需要をとらえた商品をつくり、適切な伝え方を行えば、日本全国、さらには世界の人に買ってもらえる土台ができつつあることはとても素晴らしいことです。

クラウドファンディングは玉石混淆の場ですが、プロジェクト成立後は、玉として扱われ、支援者からの期待も高まります。その期待を裏切らず、事業として大きく羽ばたかせるためにも、大胆かつ緻密に事業活動を行ってみてください。